第36章 -お隣-(岩泉一)
「じゃあ…切ってから、
もう一度来ますね。」
「…おう。」
「じゃ…」
「お…おいっ‼︎」
「なんですか?」
いったん家に戻ろうとすると、
岩泉さんに引きとめられる。
「あ…あがってくか?」
「えっ⁈」
「あ!その‼︎へ…変な意味じゃねーぞ‼︎
お…教えてくれ!」
「教える…?」
「あ…あぁ…その…切り方を…」
「ふふ…あはは♪」
普通なら断ると思う。
いくらお隣さんとはいえ、
よく知らない男の人の家に
突然上がるなんて…。
でも、真っ赤になりながら、
わたしを誘う岩泉さんを
わたしは断るコトができなかった。
「わたし、厳しいですよ?」
笑いながらわたしが言うと、
岩泉さんはお…おうと頷いて、
わたしを家に招き入れてくれた。
「岩泉さんち…包丁あるんですか?」
「包丁くらいあるわ、ボケ!」
「ボケって言われたー!ひどい(笑)!」
自然と取れた敬語…
その日は何事もなく、
本当に桃の切り方を
教えただけだったけど、
それ以来、お互い実家や
友だちから届いたものを
おすそ分けしたり、
作りすぎたご飯を持って行ったり…
岩泉さんの家とわたしの家を、
お互い行き来するようになり、
わたしたちがお付き合いするまで、
そう時間はかからなかった。
---End---