第36章 -お隣-(岩泉一)
「ありがとうございました〜」
大きな箱を受け取り、
宅急便屋さんを見送る。
やった〜♪桃♪桃♪
地元の大親友のちえりが
大好きな桃を今年も送ってくれた。
たくさん入ってる〜♪
会社のコにおすそわけしても
これから毎日
桃を食べられると思うと幸せ〜♪
なんて、浮かれたまま
玄関のドアを開けようとすると、
バランスを崩して、
大切な桃の箱を
落としそうになってしまう。
「きゃっ…」
「…ぶねっ!」
でも、落としたかと思った
大切な桃の箱は守られた。
後ろから、仕事帰りであろう
スーツ姿のお隣に住む岩泉さんが
箱を支えてくれていたから。
「あ!す、すみませんっ!」
うわっ…た…助かったけど、
さ…支え方っ‼︎
岩泉さんは箱を持ってくれているけど、
わたしの後ろから…背中越し…
抱き締められてるみたいだよっ‼︎
「大丈夫か?」
「は…い‼︎あの…」
「あ‼︎わりぃ…」
顔の近さに
お互い真っ赤になって
どちらからともなく離れた。
「あ…ありがとうございました。」
「いや…別に……桃⁈」
岩泉さんはわたしの持つ箱に
書かれた大きな文字に反応した。
「あ…はい。
地元の友だちが送ってくれたんです。
あ!たくさんあるし、
よかったらいかがですか?」
「いいのか?…‼︎あ、いや…いい。」
「そんな、遠慮しなくても。」
岩泉さんは
一瞬嬉しそうだったのに、
すぐに遠慮してしまった。
「いや、ほんとに大丈夫だ。
じゃあ…これで。
気をつけて中入れな?」
「は…い。」
岩泉さんはそのまま
逃げるように家に入ってしまった。
わたしも家に入ったけど、
岩泉さんが気になってしまう。
大切な桃を守ってもらったんだし、
やっぱりお礼したい!
…うん‼︎
思い立ったが吉日!
わたしはすぐに用意して、
岩泉さんちへ…
って、すぐ隣だけど…行った。
ピンポーン♪