第27章 -大胆-(岩泉一)
ヒュッ…
「きゃっ…‼︎」
午後練が始まる前、
1人でサーブ練をしていたが、
オレが撃ったサーブがすっぽ抜け、
体育館の入り口のほうへ
飛んでいってしまった。
普段ならなんてことないが、
撃った瞬間、そこに女の人が現れ、
その女の人の顔の横をギリギリかすめた。
「わり…あ、すみません!
大丈夫ですか⁈」
オレは慌てて駆け寄った。
「あ…うん!大丈夫‼︎
ちゃんと避けられたから!
キミのコントロールがいいんだね!」
いや…オレのコントロールが
悪かったから当たりそうになったんだろーが…
「すみれ⁈なんでココにいるんだ⁈
つぅか、ボケェ‼︎避けられもしねークセにそんなトコで見るな!」
「うっ…ごめんなさい〜‼︎」
「悪いな、岩泉!」
オレがその女の人と喋っていると、
ものすごい勢いで溝口コーチが走ってきた。
「いえ、オレのサーブの
コントロールが悪かったから…。
…溝口コーチの知り合い…っすか?」
溝口コーチの彼女…?にしては、
ちょっと歳が離れすぎてる気がする。
「あぁ。オレの従姉妹だ。
岩泉のせいじゃねぇよ。
こいつ、超運動音痴だからな。」
溝口コーチがそう言うと、
さっきの女の人がぺこりと会釈をした。
「ちょっ…貞くん‼︎そんな言い方しなくても…。本当にごめんなさい。怪我はなかった?」
「いや…オレは…」
だから、今の状況で、
どうやってオレが怪我すんだよ⁈
「つぅか、すみれ、何しに来たんだよ?」
「何って…!今日おじいちゃん達に会いに
貞くんちに行ったら、貞くん、
合宿の荷物、ぜーんぶ忘れてるんだもん。
せっかく持ってきてあげたのにーー。」
「は⁈あれは車の後ろに…」
「家の門の前にあったよ?」
「〜〜〜っ⁉︎」
今日から1泊2日でレギュラー陣の
泊り込み合宿だった。
それはもちろん溝口コーチも同じなわけで…
「プッ…」
溝口コーチの意外な?一面に
思わず吹き出してしまう。
「いーわーいーずーみーーー⁉︎」
「あ…いや…」
「貞くん‼︎生徒に八つ当たりしないの‼︎
もう‼︎大人気ないんだから。」
溝口コーチにドヤされそうになったが、
溝口コーチの従姉妹…すみれさんの
助け舟のおかげで、オレは難を逃れた。