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〜Lemon Candy Story〜

第26章 -残業-(黒尾/岩泉/花巻)


「お疲れさまでーす。」
「うっそ…⁈⁈」


同じフロアの少し先から聞こえてきた
帰る前の挨拶の声と、
わたしの落胆の声は同時だった。



定時はとっくに過ぎた午後10時。



1週間かけて作っていた資料の
数字がズレているコトに
この時間に気付いてしまった。


提出は明日…。


うっすら聞こえてきた
”お疲れさまです”という声に
こたえている余裕など皆無だった。


自分でも血の気が引いていき、
背中に汗が通るのを感じた。


「すみれさん?どーしたんすか⁇」


「え…⁇」


声の主は黒尾くんだった。


「黒尾くん…
はぁ…やっちゃったの…どぉしよう‼︎
やっちゃったぁぁぁぁ。」


わたしは机に突っ伏して、わめいた。


「え⁈何をっすか?」


「○○物産様用の資料のココの数字…
Excelの式が壊れてたみたいで、
全部やり直しになっちゃったーー。」


提出は明日の午後一。


とりあえず、最初から式を組み直して…
今からやれば、きっと0時過ぎには終わる。


1回家に帰って仮眠して、
6時に会社に来て残りをやれば、
たぶんギリギリ間に合う…かな。


会社の近くに引っ越してきて…
よかったような悪かったような…。


「……さーーん⁇すみれさーん?」


よし‼︎


「え⁈あ‼︎黒尾くん⁈なぁに⁇」


頭の中で仕事の予定を組み立て、
気合いを入れて起き上がると、
黒尾くんはわたしを呼んでいたようで、
黒尾くんに顔を覗き込まれてしまった。


それだけなのに、
不覚にもドキッとしてしまう。


「大丈夫っすか?
なんか手伝います?」


「え⁈あぁ!うん!大丈夫‼︎
まぁ、なんだかんだで、
どうにかなると思えてきたし♪」


「ほんとっすか?」


疑うような黒尾くんの視線を
わたしはまともに受け止められなかった。


「ほんとほんと♪
ちょっとショックでオーバーに言っちゃっただけ。黒尾くん、電車大丈夫?
もう遅いし、早く帰らなきゃ。」


「はぁ…。
そのことば、そっくりそのまま、
すみれさんに返しますよ?」


「え⁇」


「”なんとかなる”って、
どうせ、徹夜すればなんとかなる…
って思ってるんすよね?」


思いがけない黒尾くんのことばに、
わたしは目を見開いて黒尾くんを
見つめてしまった。



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