第9章 だるいので帰ったら余計にだるかった
「おいおい、随分活きがいいメス猫じゃねーか」
戦闘モードに入ろうとしていた希紗の
前に立ちはだかり振り上げられた男の腕を
掴んでひねりあげたお坊ちゃん。
(え、まって。ちょっと待て。
もしかしてやけど、跡部!?)
チンピラにばかり気を取られて
絡まれている方を見ていなかった希紗。
(いやいやいや、こっちの世界来てこんなソッコーで
会うような相手じゃないろ。
まだ立海の大ボスにも会うてないのに。)
「いてぇぇええ!」
「俺様をカツアゲしようなんざ
いい度胸じゃねーの」
「おい、お前ら!かかれー!」
希紗が内心1人で焦っている間に
他の3人が跡部に襲いかかる。
(まぁ、ひとまず片付けるか)
一旦冷静になり4人の男達を見据える。
サッと跡部の横を抜け襲ってくる男達を相手に
軽々と蹴りを入れていく。
ものの1、2分。
誰が見ても勝負はついた。
(嘘やろ。手も使うてないのに。
まだ元の世界の奴らの方がやりがいあったわ。)
地面に沈んでいる奴らはしばらく起きられないだろう。
(さて、と。)
「おい、てめー。女ひとりで危ねぇだろうが」
「心配はいらない」
「こんな奴ら俺様1人でどーにでもできたのによ」
「あ、そう。邪魔したね。」
綺麗な顔を若干歪めながら会話をしている跡部。
(やっぱ綺麗な顔やわ。朱梨にも見せちゃりたかった。)
漫画で見たのとは比べ物にならないくらいの美形。
元の世界で妹が、彼は教祖様ですか、と聞きたいくらいに
崇拝していた跡部景吾。
やはり、財閥の息子というだけあってオーラがすごい。
立ち振る舞いにもそれが表れていた。
「いや、助けて貰ったのは事実だ。
礼を言う。」
「まぁ次からは気をつけな。」
もう少し話して繋がりを持っておこうと思ったが
今はとりあえず家に帰り着きたい希紗。
(やばい。タバコが吸いたい。
今日朝吸ってからずっと吸ってない)
そんなことを頭に思いながら
跡部を置いて歩き出す。
「おい、お前。名前は?」
「いーよそんなん。もう会うこともないだろうし。」
後ろから聞こえる跡部の声に素っ気なく返し
家への道を歩き始める。