第9章 【大石の大罪】
ひぃっく・・・ひぃっく・・・
全部、秀一郎が悪いんだからね!
大丈夫、もうすぐ帰れるから大丈夫!
私は泣きながらあなたについて行く
夕焼けの中をはぐれないように
しっかりとつながれた手が
温かかった―――
【大石の大罪】
「・・・で?」
「・・・で?、と言われても・・・それがその・・・」
12月に入り、外は木枯らしが吹き荒れる。
そんなある日の放課後、私は彼と向かい合って座っていた。
あ、彼といってもいわゆる彼氏の彼ではない。
彼の名は大石秀一郎。
テニス部副部長で、個性派ぞろいの男子テニス部のまとめ役で、青学の母とも称される男。
そして私のただの幼馴染。
しかも隣の家に住んでいるという、もう生まれたときからの付き合いだったりする。
「それがその・・・、じゃないでしょ!?」
「ははは・・・」
「だ~か~ら~、ははは・・・、じゃなくて!!」
はっきりしない彼の態度はいつものことだけど、だからって私にも我慢の限界というものがある。
私はイライラ最高潮の頭を抱えると、あ~~~、もう!!と両手で机をバンッと叩き付ける。
「・・・彼女、今日は一段とイライラしているね?」
「うんにゃー、きっと月に一度のオンナノコの・・・」
「英二、それ以上言ったらセクハラで訴えるよ?」
「はひっ!ごめんにゃさい!!!」
少し離れた席で内緒話をする不二と英二を私はギロッと睨み付け、一段と低い声で英二にくぎを刺すと、2人はやれやれと首をすくめる。
私はそんな2人から秀一郎に視線を戻し、ふぅーっとため息をついたあと、今度は大きく息を吸い込んで、さっきよりちょっと荒げた声で話を続ける。
「あのねぇ!秀一郎!!あんたこの間出来た彼女と、初デートしたんだったよね!?」
「あぁ、そうだけど・・・」
「で、その行き先がこれって本当!?」
「だから、そうなんだけど・・・駄目だったかい?」
そう、秀一郎には先日彼女ができた。
この灰色の受験シーズン真っただ中・・・しかも医学部のある大学の付属高校を外部受験する秀一郎に告白した挙句、どこか連れてけという、私からしたら空気読めないひとつ年下の自己中女。
本人の顔すらまだ見たことないけれど、親の顔が見てみたいとはまさにこの子のためにある言葉だと、私はこっそり思っている。