第7章 【とある乾の禁書目録】
「乾くん、私用のデータノート、見せて?」
桜の木の下に並んで座る彼女が俺の顔を覗き込みそう話す。
今までに知らなかった穏やかな時間が流れ出す。
「いや、これはたとえ本人であっても見せるわけにはいかない。」
「ふーん、私に見せられないデータ集めてたっていうの~?やーらしー・・・」
「いや、決してそういう訳ではなく・・・」
じゃ、どういう意味?そう言って彼女が上目づかいで覗き込む。
その顔は、反則だな・・・そうため息をついて俺は彼女にノートを手渡すと、彼女はふふと笑い、ノートに目を通す。
「へー・・・こんなことまで調べてたんだ?さすがキグルミきて高等部に忍び込んでくるだけのことはあるね?」
「なっ!!」
「だって今日、私のデータをとりに来てたんでしょ?」
「いや、それはそうなのだが・・・」
本当にかなわないな、そう言って俺が苦笑いすると、私の乾くん用データノートも見る?と彼女はバッグから一冊のノートを取り出し俺に手渡す。
俺のデータノート?と聞きながら受け取ると、そう、マネして作ったのと彼女は得意げに笑った。
ノートには以前、学校新聞に載った俺のプロフィールが書いてあって、背が高い!や、飢える、噛むは却下!と、可愛い字で箇条書きがされていて、思わず頬が緩んだ。
「ね、これからお互い、沢山データ集めて行こうね?」
「そうだな。」
そしてまた2人で笑いあう。
そう、これから沢山データを集めて行こう。
彼女の好みも喜びも考えも・・・
俺しか手に入れることが出来ない彼女の全てを、一瞬も逃さずに・・・
「あ!!私、すごくいいこと思いついちゃった!」
そう彼女が両手をたたき、俺を見る。
「思いついたって・・・何を?」
「文化祭の企画!」
「・・・あぁ!」
「もー、肝心の乾くんがすっかり忘れてたらダメでしょ?」
そして彼女は企画を俺に話し始める。
爽やかな秋風が2人を包み、俺は桜の枝葉を見上げる。
桜の精か・・・そうだな、証明することは出来ないが、それでも信じてみてもいいかもな・・・
ちょっと聞いてる?そう言って膨れる彼女に、ごめんごめんと謝る。
桜の精がそっと俺たちを見ているような
そんな気がして俺は笑った―――
乾貞治編
「とある乾の禁書目録」完