第7章 【とある乾の禁書目録】
私は青春学園高等部2年生で、今、部活の後輩指導のため、校長先生から許可をもらい、中等部の見学に来ていた。
理科室前に差し掛かるとこの世のものとは思えぬほどの凄い臭いに思わず気持ちが悪くなる。
これってもしかして・・・ガス漏れ?
大変、中に人の気配がする、助けなきゃ!!
私は無我夢中で中に飛び込んで、窓を全開にし、中にいた男子生徒の手をとり廊下に飛び出した。
ところがガス漏れじゃなかったらしい。
実験で作ったようにしか見えない、その強烈な臭いを放つ物体は、こともあろうに文化祭で配るウエルカムドリンクだと言うのだ。
そして、それを試飲するように促されている。
「・・・ウエルカム・・・?」
「『ウエルカム』ではない、『飢える、噛む』だ」
その物体・・・もとい「飢える、噛む」は毒々しいまでの赤い色で、ドリンクと言う割にこんにゃくゼリーを思わせるような弾力があり、食欲増進効果があるらしい。
なるほど、飢える、噛む・・・凄いネーミングセンスだ。
「あの・・・これ・・・何が入っているの・・・?」
「安心してくれ、食べ物だ」
そう言って逆光で笑う彼の気迫に負けて、覚悟を決めると一口舐めてみる。
・・・んぐぅぐぁ!!
たった一舐めで凄い破壊力。
舐めた瞬間、走馬灯が見えて、一昨年亡くなったおばあちゃんが川の向こうでこっちに来ては駄目と合図していた。
慌てて実験台の水道を勢いよくひねり、そこでうがいをする。
「うーむ、味の方はまだまだ改良の余地がありそうだ」
「無理だから!」
私はきっぱりとそれを否定する。
そうか・・・とちょっと悲しそうな顔をする彼に、一瞬ひるみそうになるけれど、これを配られたら、きっと文化祭は地獄絵図と変わり、彼は無差別大量殺人の罪で捕まってしまう。
彼のためにもはっきり言わなくちゃ。
「たった一舐めで死ぬかと思ったもの!」
「効果の方は期待大なのだが・・・」
「いえ、みんな倒れて誰も模擬店を利用できず逆効果です!」
「・・・残念だ」
はい、却下!そう言って私は彼の鼻先を人差し指でゆびさす。
「ではどうしたらいいだろうか・・・何か目玉になるイベントを考えなければならないのだが・・・」
「うーん・・・」
気が付いたら、成り行きでイベントを一緒に考えることになっていた。