第9章 6/13菅原孝支HB 〜君の見ている風景の先へ〜
彼女は長椅子に寝そべってはみ出した両足を子供みたいにブラブラとさせて俺がスープを飲み干すのを確認してから口を開いた。
『私ね、トランペットやってるけど全然上手くないの。下手でもないけど。でも周りにはもっと上手い人いっぱいいて、その中にいる私ってすごく意味がないような気がしちゃって、、、、だからバカな事やりたくなるんだ。練習しろって話なんだけどね。』
寂しげに空を見上げる彼女は月明かりで青白く光って、風にそよいだ髪が顔にかかってるのもそのままで、その姿が俺には少し大人っぽく見えた。
「俺も部活にすげぇ一年入ってきてさ。それがあまりに凄すぎて、俺がやってきた3年間、なんだったんだろうなって思うんだよ、最近。」
『うわぁ、、、、それ最悪だね。菅原ってバレー部?』
「そう。でもさ、これが本当に凄すぎるんだよ。きっとこれからうちの部って強くなるんだろうなって思えるくらい。今まではそんな風に思えなかったのにな〜。」
『それ、余計に辛いね。』
「ははは。まぁなー、、、、。」
俺は彼女の頭の方に頭を向けて同じように長椅子のもう半分に寝転がって空を見た。黒い墨を流したような空を月明かりがぼんやりと照らして、肌寒い透き通った空気に星がいつもよりも輝いて見えるような気がした。
『ねぇ、菅原、、、、見て、夏の大三角形、、、、』
「え、どれ?」
『あれ、あそこに見えるやつ。』
「ん?あれ?」
『ちがう。あれが、こと座のベガ。で、、、、あれがわし座のアルタイル。、、、そんで、はくちょう座のデネブ、、、、』
空を指差す俺の手を掴んで、は空の三つの星を線でなぞった。彼女の冷んやりとした手が俺の手首を掴むから、少しドキドキした。
「星座詳しいの?」
『それほどは、、、、でも星を見るのは好き。』
「俺たちさ、どうしたら本当の特別になれんのかな。」
おもむろに手首に巻きついてた彼女の掌を解いて、手を繋ぎ直した。