第1章 【本当は】
「帰ろーぜ、一緒に。」
目を合わせることまでは出来なかったが何とか言えた。途端に目の端に顔を赤くしてキョロキョロする真島が見えた。
「う、うん、わーった。」
しばらくキョロキョロして真島が言ったので木下はマジかと内心驚いた。
「決まりだな。」
澤村がニッと笑う。
「すんません、しばしお世話になるっす。」
真島は頭を下げた。
「そら、言っただろ。」
縁下が耳打ちしてきて木下はやはり恨みがましく縁下を見た。
「何でなんだよ。」
「真島さんがちょいちょいお前見てるの知ってたし、丁度いい機会かなって。」
「何が丁度いい機会だよ、俺は別に。」
縁下はへぇと笑った。
「じゃあ何でお前は真島さん見かける度に目で追ってたんだ。」
指摘されて木下はうぐっと唸った。
「気づいてないとでも思ったか。」
「さすが縁下、つーかおっかねぇ。」
「それで思い出したけどさ、」
縁下が急にずううんと落ち込んだので木下はびっくりした。
「今度でいいから真島さんに言っといて、首のあたり掻くのやめてって。」
「また何で。」
そういえば真島が首を掻いているのをしょっちゅう見たことがあるが。
「あれさ、落ち着かない時によくやってるみたいなんだけど俺と話してる時もやってるんだよ。俺が嫌いでストレスになってんのかなって凹む。」
「お、落ち着け縁下、嫌われてるとかじゃなくてあれだ田中と西谷がお前の言うこと聞くのと一緒だ一目置いてんだよ。いや掻くのはやめさせるけどつか聞いてくれるのか。」
「さっきだってそうだったろ、あの人お前の言うことなら聞くよ、俺のとは別の意味で。」
そうやって真島優子は男子排球部一行と一緒に帰ることになった。
歩いている間、他の皆がお互いそれぞれ喋っている中で木下は珍しく2年仲間から離れて真島の隣を歩いていた。真島は成田から返してもらった私物のバレーボールを抱えて黙っている。木下も何を言えばいいのかわからず会話が出来ないまま2人は歩き続ける。