第11章 【それでもここにいる その4】
そういう訳でその日の就寝前、木下は日向から妙な伝言を受ける事になる。
「木下さん。」
「おう。」
「梟谷のセッターの人から、木下さんによろしくって。」
布団に胡座をかいていた木下はぎょっとして本当に一瞬飛び上がった。
「何でっ。」
「ペットがお世話になってるからって言ってました。」
「な、おい。」
木下は動揺しまくるが周囲の烏野勢は多くが吹き出しそうになるのをこらえている。吹き出していないのは月島とマネージャーの谷地、清水で月島は馬鹿馬鹿しいといった顔、谷地は自分のことではないのにアワアワしていて清水はいつものポーカーフェイスである。
「別に伝言なんかしなくてもいいのによ。」
木下がブツブツ言っていると日向があ、と言う。
「そっかペットってあいつの事か、梟谷のエースの人に練習付き合えって言われて嫌だって言ってた。」
「何だそれ。」
黙って聞いていた影山が何て野郎だと言いたげに声を上げる。
「自分とこの主将でエースの人なのにかっ。」
「自分じゃ練習になんないからーって。」
「へ、へえ。」
実は一部始終を知っている木下は一生懸命ごまかす。しかし成田と縁下の視線が背中に刺さっている気がした。
「そんでセッターの人もそこんとこわかってるっぽくて行っていいってそいつに言ってたんだけど、エースの人にペットの方が気がきくとかなんとかってのも言ってたな。」
「ふーん、日向にしてはまあまあ内容がわかる話だね。」
「俺がいつも意味わかんないみたいに言うなよ、月島っ。」
「違うつもりだったんだ。」
「ぬぁにをーっ。」
「こらお前らやめろっ。」
菅原に割って入られて日向は一旦おとなしくなる。
「自分じゃ練習になんないってのはわかる気がするな。」
木下は無意識に口にしていた。
「嫌でもそういう差って見えると思う。あいつ編入生で途中入部らしいから余計に。」
言う自分は一体どんな顔をしていたのか。
「木下さん。」
不思議そうに呼びかける日向に木下はハッとした。
「や、何でもねえ。」
何か変な空気になっちまったと木下は内心かなり慌てる。一瞬静まり返った烏野勢、何となく察したらしき澤村がパンパンと両手を鳴らす。
「ほらほら、駄べりはその辺にしていい加減寝るぞ。」