第6章 【漫画サークル切込み隊長 その3】
部活仲間におちょくられながらもいつもどおり練習に励み、終わって帰宅した木下は漫画サークルの会長がくれた冊子をパラパラとめくっていた。教えてもらった真島の漫画に目を止める。ちゃんとコマ割りをしていた。一話完結で話が出来ていた。でも絵は確かに他のメンバーが描いたイラストなどと比べると劣る。今時素人とは言えこれだけ下手なのも珍しいかもしれない。それでも木下は2、3回それを読み返した。
「何か」
ボソッと木下は独りごちる。
「熱いな。」
正直な感想だった。
またしばらくしてから木下は成田と一緒に漫画サークルのところへ向かっていた。だがいつもと違いこの時は面倒事を目撃する事になる。
木下と成田が見たのは以下の通りだ。
通りすがりの男子がプレッツェル菓子の空き箱を漫画サークルがいる教室の窓から投げ込んだ。投げ込まれた箱はサークルメンバーの誰かに当たったのだろう、控えめな痛いっという声が上がる。しかし投げ込んだ方が嘲笑したのみでそのまま去ろうとしたあたりから事は劇的に進行した。まず空き箱が窓から投げ返され投げ込んだ本人の側頭部に軽く当たった。カチンときたのだろう、側頭部をさすりながらその本人はやはり開けっ放しの教室の廊下側の窓に向かって何しやがると怒鳴った。自分が発端である事は棚上げのようだ。木下と成田が固唾(かたず)を呑んで見守る中教室からは真島先輩ちょっとと声が上がりガラッとドアが開けられて真島優子その人が姿を現わした。
「いきなりゴミ投げ込んだのはどっちだ、教室とゴミ箱の区別も付かんのか。」
何回かあったようにわあわあ言わない、しかし静かに言う真島の声からは相当怒っている様子が見てとれる。ゴミを投げ込んだ方は何キレてんだキモいとあまりよろしくない事を真島に言う。よせやめろと木下は内心思うが声も出ず体も動かない。成田もまた同じように固まっていた。
「そうか。」
当の真島はやはり静かに言った。
「ゴミ投げ込んでしかも人に当たったのわかってたくせに謝らないのはキモくないのか。やり返されたら怒る癖になかなか独創的な考え方だな。」