第4章 【漫画サークル切込隊長 その1】
烏野高校2年2組男子排球部の木下久志からすればそもそもは同じ男子排球部2年田中龍之介からのとばっちりが始まりだった。
その時、日直だった縁下力と3年の東峰旭の所へすっ飛んでいった西谷夕を除いた男子排球部2年の連中は一緒に部活に行こうとしていた。そこでとある教室の前を通ろうとした時のことである。
「お、相変わらずやってやがんな。」
開けっ放しの廊下側の窓に目をやって田中がふと足を止めた。
「やってるって。」
木下は尋ねる。
「ここどっかの部が使ってるのか。」
「何だおめ知らねーのか、ここ漫画サークルが使ってんだよ。」
「うちの学校にそんなのがあった事自体にびっくりした。」
木下の呟きに横にいる成田一仁もうんうんと頷く。
「部活じゃないし目立ちにくいんだろうな。」
「多分なー。」
言い合う木下と成田、ここまでなら別に木下達も漫画サークル側もお互い聞き流してそのままで済んだはずだった。済まなかったのはだいたい田中のせいである。
「しっかしまー」
田中が言った。
「毎日毎日引きこもってチマチマチマチマ絵描いてよ、暗いったらありゃしねぇ。」
まずいことに田中の声はでかかった。木下はヤベッと思う。窓を開けっ放しの教室、あの声量はどう考えても漫画サークル側に聞こえる。表情からして恐らく成田も同じ心境だろう。どうしようと思っているうちに教室の奥で固まって一生懸命絵を描く女子達の1人が席を立ってこちらにズンズンとやってきた。漫画サークル内のメンバーも気がついたのか、あっやばいと声を上げるが女子は止まらない。廊下側の窓までやってきたその女子は田中をジロリと見て言ってはいけないことを言った。
「おいそこのハゲ、誰が暗いって。」
「誰がハゲだあああああああっ。」
「ああスマン、まだハゲてねーわな将来的には知らんが。」
通常なら田中も女子相手にあまり無茶はしないのだろうが相手の物言いがアレだったので女子という認識はなかったことになったようだ。
「てめえぇぇぇぇぇぇっ。」
「田中、やめろって。」
成田が田中の袖を引っ張るが当の田中は完全に戦闘モードに入っていて当の女子は田中だと、と聞き覚えがあるような反応を示す。
「メンツ見たところお前ら全員男バレだな、ああ思い出したぞ。」
女子は手をポンと叩いて言った。