第6章 相合い傘。
渋「ん、これ」
と、開いたままの傘の取っ手が
持て!と言わんばかりに私へ突き出された。
慌ててバナナオーレを
左手に持ち替え傘を受け取る。
えっ、何、どういう事?
渋「明日、学校に置いててくれたらえぇから」
「あ、あのっ、お金」
渋「じゃあな」
と、私の声を無視して
傘から抜け出し歩き出す。
向けられた背中
制服の右上辺り
肩らへんが濡れていた。
車道で車が水溜りの上を走る音や
傘に弾かれる小さな無数の雫の音の中で
左胸の鼓動が少しずつ大きく鳴っている。
「…………っ…」
濡れずにここまで来れたのは
傘の位置だけちゃうかった。
男の子にそういう優しさを
出されるのも初めてで。
どうやら、私の心は
渋谷くんに動かされたみたい。