第19章 【サボテンの花言葉】不二周助
トレーニング施設からマネージャーの車に乗ってホテルに戻る。
明日も迎えにくるから、そう言って帰るマネージャーの車を見送ると、従業員通用口から中に入り自分の部屋まで足早に向かう。
鍵を開けて中にはいると、ラケットバッグを置いてソファに腰を下ろし、フーッとため息をつきながら背もたれに身を預ける。
やっぱり、自宅じゃないと安まらないな・・・ポツリと呟いてまたため息を落とした。
報道が出てから自宅にも帰れなくなって、すぐ連絡をくれた裕太に事情を説明すると、兄貴も大変だな・・・そう言ってため息をついてくれた。
「大丈夫なのかよ・・・?璃音に誤解されてんじゃねーのか?」
「クスッ、嬉しいよ、裕太、僕の心配をしてくれるんだね?」
「だ、誰が兄貴の心配なんかするかよ!俺が心配してんのは璃音だ!」
そう声を荒げる裕太に、璃音じゃなくて璃音姉さんだよって言ったら、・・・結婚したらそう呼んでやるよ、そうぶっきらぼうに答えて裕太は通話を終わらせた。
本当、いくつになっても裕太は可愛いなぁ、そうその時のことを思い出してクスクス笑う。
それから、ふと感じた違和感に顔を上げる。
室内の様子がどことなく違っている気がする。
僕のいない間にルームメイクに来たのか・・・?
いや、それは断っているし、掃除された形跡もない・・・
周りを見回すも違和感の正体がわからず、気のせいか・・・?そうもう一度ソファに腰を下ろした。
「お帰りなさい、周助♪」
突然後ろから包み込まれる。
聞き慣れない声とその温もりに驚いてバッとその身体から離れる。
それから、その声の持ち主の顔を確かめて、その人物に驚いて目を見開いた。
「キミは・・・市川美沙さん・・・」
そこにいたのは、まさに噂になった相手、グラビアモデルの市川美沙さんで、ごめんなさい、驚かせちゃいました・・・?そう言って彼女は含みのある笑顔を見せた。