第18章 【10年後の木の下で】菊丸英二
「オレってば、すんげー、いーこと思いついちった!」
んー、って人差し指を顎に当ててちょっと考えた彼が、ぱっと満面の笑みを浮かべたと思ったら、そう言って私の顔を覗き込む。
「オレたち、結婚すればいーんじゃん!」
そうすればお互い忙しくたって、ずっと一緒にいられるよん?そう英二くんが何でもないことのようにウインクをして笑うから、私は目をぱちくりさせてしまう。
「えっと・・・ここで言う?」
ここはラブホの一室で、確かに英二くんさえいれば何でもいいと思ってはいるけれど、やっぱり一生に一度のプロポーズにはそれなりに、夢や憧れを持っているのも本当の話で・・・思わず辺りを見回し苦笑いをする。
そんな私の顔を見た英二くんは、やっぱここじゃまずかった?そう気まずそうな顔をするから、ううん、と慌てて首を横に振り、突然だったからびっくりしただけ・・・嬉しい、そう言って彼の胸に頬を埋める。
だってほら、思い立ったが休日って言うじゃん?そう得意げに笑う英二くんに、それを言うなら『吉日』だよ?って思わずプッと吹き出すと、ありゃ、そう言って彼は頬を指で掻きながら苦笑いをした。
「しっかりしてよ、菊丸先生?」
「はい!しっかり幸せにしてみせます!」
そして私達は誓いのキスを交わしあい、それから額同士をコツンと合わせてクスクス笑う。
直ぐにもう一度、ゆっくり唇をあわせ、そしてまた笑いあう。
ね、英二くん。
私達、ずっと一緒にいられるね。
こうやって2人で笑いあって生きていけるね。
でもプロポーズの思い出は?って聞かれたときに、ラブホでってかなり恥ずかしいよね?そう苦笑いして言うと、んじゃ、やり直す?って英二くんがにいっと笑う。
「プロポーズにやり直しってありかな?」
「ありあり!テストにだって追試はつきものじゃん?」
オレ、昔から追試って大得意!そう言って得意げな顔をする英二くんがおかしくて、また2人で笑いあった。
そして後日、私達は改めて一生に一度のプロポーズの追試を執り行った。
そこは懐かしい風が吹く、2人の始まりになった場所。
青春学園中等部の中庭の、
大きな桜の木の下で____
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