第18章 【10年後の木の下で】菊丸英二
「ほんとはさ、誕生日なんかどうでも良かったんだ。」
久しぶりに確かめ合った温もりの余韻に浸りながら、英二くんの腕の中でうっとりと微睡むと、そんな私の髪を撫でる彼がそう呟く。
え?って不思議に思って見上げると、璃音に会えなくてイジケていただけなんだ、そうちょっと苦笑いした英二くんが、ほんと、いつまでもガキでごめんな、そう言ってもう一度謝る。
ううんと首を横に振り、私も会えなくて寂しかった、そう呟いて英二くんの胸に頬を寄せる。
「私、高級外車も別荘のテニスコートもいらない、ロイヤルスイートじゃなくてもいいの。」
そう小さい声で呟くと、なんか言った?って英二くんが不思議そうな顔をして聞くから、ううん、こっちのこと、そう言ってふふっと笑う。
赤いかわいい国産車と区営コート、ラブホで抱き合っていたっていいの、英二くんさえいればそれで十分なの・・・そう心の中で呟いて、もう一度その胸に頬を寄せた。
「でもさ、ちょっとヤバかったかな?」
あーっ・・・て英二くんが私の顔を覗き込み、そう苦笑いをして言ったから、どうしたの?って聞き返すと、あいつのせいで、璃音の会社での立場、ヤバくなんない・・・?そう心配そうな顔で聞いてくる。
もちろん後悔はしてないけどさ、やっぱもっと穏便にするべきだったかなー?そう苦笑いする英二くんに、ううん、いいの、そう言って首を横に振る。
「もしかしたらプロジェクトから外されちゃうかも知れないけれど、私、それでもいいもの。」
これ以上一緒にいる時間が減って、英二くんと喧嘩したくないの、そう続けて笑うと、そっかって彼も嬉しそうに笑う。
確かにずっと頑張ってきたプロジェクトから外されちゃったら残念だけど、やっぱり私が一番大切なのは仕事じゃなくて英二くんだもの・・・
少し寂しい気持ちを心の隅に押し隠すと、私はそう言って彼に笑顔を向けた。