第18章 【10年後の木の下で】菊丸英二
・・・温かい・・・フワフワする・・・
私の身体を包み込むその感触は昔からなにも変わらずに、すっかり馴染んで自然になったその温もりは、とても安心できる大切な存在。
そっと腕を回して頬ずりをする。
「璃音・・・?、目、覚めた・・・?」
その甘く心地よいベイビーヴォイスに目を開けると、そこにはやっぱり大好きな英二くんが優しい笑顔で覗き込んでいて、そんな彼に私も笑顔をみせる。
意識がだんだんはっきりしてきて、見えてきたのは見慣れぬ天井、それからお世辞にも良いとは言えない肌触りのベッド。
・・・ラブホ?、そうゆっくり起き上がって声を掛けると、ごめん、オレの安月給じゃあのホテル無理でさ、そう苦笑いする英二くんにううんと首を振って笑いかける。
飲む?、そう差し出してくれたミネラルウォーターをひとくち口に含む。
酔いが覚め始めた身体に冷たい水が染み渡り、美味しい、そう言ってもうひとくち口に含んだ。
「ったく、気をつけなきゃダメじゃん!璃音、酒、飲めないんだからさ!」
本当に心配したんだかんな、そう怖い顔をする英二くんに、ごめんなさいと謝ると、間に合って良かった、そう言って彼は私の身体を包み込む。
もしあの時、英二くんが来てくれなかったらと思うと恐怖で身体が震えると同時に、ちゃんと迎えに来てくれたことが嬉しくて、助けてくれてありがとう、そう呟いてその胸に頬を埋めた。
すると、ゴメンな?と英二くんが私に謝るから、心配かけたのは私の方だよ?そう言って彼の顔を見上げる。
「違くてさ、オレ、意地張ってゴメン。」
すぐに迎えに行ってやれなくて、ちゃんと電話に出てれば怖い思いさせなくて済んだのにさ、そう言って私を包み込む英二くんの腕にギュッと力がこもる。
ううん、そう首を振って彼の胸に寄り添うと、私の方こそごめんなさいと呟いて、それからそっと唇を重ね合った。
「充電完了?」
「いんにゃ、全然足んない。」
そして英二くんは私の身体をマットへと沈めると、もう一度キスをしてそれからまた笑いあう。
大切な温もりにまた触れ合えた幸せを、お互いが全身で感じながら、その喜びを確かめ合った。