第18章 【10年後の木の下で】菊丸英二
「ストーーーーーップ!!!」
必死に彼に助けを求めると、突然後ろから身体を包まれて、グイッと引っ張られる。
え?って思って顔を上げて振り向くと、そこには会いたくて堪らない大好きな彼が、息を切らして私を抱きしめていた。
「えい、じくん・・・どうして・・・?」
「市川さんから電話もらったよん、ギリギリセーフ?」
そう言って英二くんはウインクをしながらブイサインをする。
怖くて張りつめていた緊張の糸が切れてホッとしたのと、怒らせてしまった彼が目の前にいて助けてくれたことが嬉しくて、ギュッと彼の胸に頬を埋めると次々と涙が溢れだす。
「なんだ、お前は!!」
そう声を荒げる御曹司の声に我に返る。
お前こそなんだよっ、そう英二くんが御曹司に食ってかかる。
「ぼ、僕は彼女の仕事の取引先の御曹司だぞ!!」
「それが何だってんだよ!オレなんか璃音の彼氏だかんな!!」
もう10年もつき合ってんだぞ!そう言って英二くんは御曹司を睨みつける。
「だいたい、こーんな強い酒飲ませて、人の彼女酔わせて何するつもりだったんだよ!?」
「な、なにを言っているんだ!僕はただ、酔いつぶれた彼女を少し休ませてあげようと・・・」
「だーかーらー、酔いつぶしたのは誰だってーの!」
皆さーん、ここのお坊ちゃんが女の人を酔わせて、何かイケナイコトを企んでますよー!、そう英二くんは大声を上げる。
周りの視線が私たちに集まっていることに気がついた御曹司は、失敬な!そう焦りながら帰って行く。
申し訳ありません、他のお客様のご迷惑になりますので・・・そう言うバーテンダーに、はうっ、すみませんっ!そう英二くんは必死に謝罪する。
そんな様子を私はクラクラする頭でぼんやりと眺めながら、彼の腕の温もりに幸せを感じて微睡んでいた。
「璃音?・・・おーい、璃音!!」
そう私の顔を覗き込み、必死に呼びかける英二くんに、お誕生日・・・おめでとう・・・大好き・・・そう呟いて私は意識を手放した。