第18章 【10年後の木の下で】菊丸英二
「大丈夫?ちょっと酔っちゃった?」
そう心配そうに覗き込む御曹司の言葉に、そうみたいです、すみません、そう笑顔を作って答える。
おかしいなぁ?いくら、弱いと言ってもこんなにすぐクラクラしたりしないんだけど・・・
先ほどの甘いカクテルを半分くらい飲んだところで、どうやら酔いが回ってしまったらしく、真っ直ぐに座っているのも辛くなっていた。
あ、そっか、最近の忙しさに加えて、英二くんのことで寝不足だもんね、酔いも回りやすくなってたんだ・・・
不覚、そう思いながらカウンターに両ひじを突いて、フラフラする頭を抱えるように支えたけれど、下を向いているとなおさら頭がクラクラしてきて、ふーっと深呼吸する。
目に浮かんでくるのは大好きな彼の笑顔。
英二くん、ごめんなさい、はやく会いに行きたいのに・・・会ってもらえないかも知れないけれど、でも今すぐ会いたいのに・・・
もう電話にもでてくれない、LINEにも応えてくれない・・・飲み会なんて強引に断れば良かった、私は英二くんの側にいたいのに・・・
頭に浮かんでくるそんな後悔に、目から大量の涙が溢れ出す。
「僕が支えてあげるよ。ほら、こっちにおいで?」
泣き上戸かな?そう言った御曹司の手が私の腰に回されて、え?って思ったときには引き寄せられていて、大丈夫です、そう力の入らない手で必死にその胸を押し戻す。
どうしよう、そう心臓がバクバクてし、冷や汗が流れ出す。
ぼーっとする頭で、何とかしないと、そう必死に考える。
「今夜はキミのためにここのロイヤルスイートを抑えてあるんだ。」
イヤ・・・!
「そこで少し休めば、すぐにヨクなるよ?」
キモチワルイ・・・!!
御曹司のもう一方の手が私の太ももをなで上げ、ぞぞぞっと悪寒が走る。
抵抗したいのに全然力が入らなくて、なんとか、やめて下さい!と必死に身体を引くけれど、腰に回された腕がソレを許してはくれない。
やだ、このままじゃ逃げられない、誰か助けて・・・そう周りを見渡したけれど、他のお客さんは誰も私の様子に気づいていない。
助けて・・・お願い・・・誰か・・・
「・・・助けて!英二くんっ!!」
そうギュッと瞳をとじると次から次と涙が溢れだし、来るはずもない彼に必死に助けを求めていた。