第18章 【10年後の木の下で】菊丸英二
「僕はね、高級外車を何台も乗り回しているし、あちこちに別荘も持っているんだ、キミだったら今度連れて行ってあげてもいいよ?」
先ほどから何度も繰り返される薄っぺらい御曹司の自慢話に、えー、本当ですかー?そう感情のこもっていない笑顔で返事をする。
そんなのあなたのものじゃなくて、あなたの親の財産の産物じゃないの、そう心の中で毒を吐く。
「別荘にはテニスコートもあるんだ、僕が教えてあげるよ、手取り足取りさ。」
テニス・・・そう言えば最近、全然行ってないな・・・
英二くんと一緒にするには体力的に無理があって、情けないぞー?なんてバカにされながらも楽しくて・・・
「さっきから上の空だね、僕、気分悪いなぁ・・・」
そう言う御曹司の言葉に慌てて我に返る。
そんなことありませんよ、そう笑ったところで彼は凄く怒った顔をしていた。
「すみません、最近、仕事が忙しくてちょっとぼーっとしちゃって・・・」
そう必死に謝ると、彼は仕方がないな、そう言って笑い、何か飲むかい?ずっとソフトドリンクばかりだろ?そうパチンと指を鳴らしてバーテンダーを呼ぶ。
サムッ、こんなの、氷帝の跡部さん以外はやっぱり似合わない!そう思わず身震いをしながら、私、そんなに飲めなくて・・・そう言って慌てて手を横に振る。
「大丈夫だよ、甘くて飲みやすいからね。」
そう言って私の前に置かれた赤くてキレイなカクテルは、確かにふわんと甘い香りがして、コレなら飲めそうです、そう言って笑顔を作る。
とにかく機嫌をとらなくちゃ、こんな人でも大切な取引先の御曹司、接待だと思って頑張らないと・・・気分良く飲んでもらって、そしてさっさと帰ってもらおう。
そう思いなから乾杯をして、そのカクテルを口に含む。
それはやっぱりとても甘いジュースのようで、美味しい・・・そう言って笑うと、彼も満足そうに笑ったから、ホッと胸を撫でおろした。