第18章 【10年後の木の下で】菊丸英二
「どうしたの、さっきから携帯ばかり気にして?」
またお友達から電話?そう私の顔をのぞき込む取引先の御曹司に、何でもないんです、そう慌てて携帯をしまうと笑顔を作る。
数日前から全然つながらないままの発信履歴、それから私のゴメンねに虚しく着いたLINEの既読文字。
いつもはすぐに返信してくれるのに、一度もならない携帯を思い出しては胸が苦しくなる。
美沙が変わりに電話してくれるって言ってたけど、きっと私のことなんて迎えに来てくれないよね・・・そう思うとこっそりため息をついた。
「そう?随分気にしているようだけど?気分悪いから電源切ってくれる?」
その一言に、え・・・?っと顔を曇らせる。
そんな私を見ながら彼は、キミはボクの頼みを断れないよね?そう歪んだ笑顔を見せる。
私が今携わっている社運をかけたプロジェクト、成功させるにはこの御曹司の会社の協力が必要不可欠。
だからしつこく言い寄ってくるこの御曹司にイヤな顔は出来なくて、のらりくらりとかわしながら来たけれど、とうとう強引に連れ出されてしまい今に至る。
えーっと、家から緊急の電話があるかも知れないですし・・・、そうとぼけてみたけれど、御曹司の鋭い視線に見つめられ、私は首をすくめて電源を落とした。
英二くん、何をしてるかな・・・?
本当だったら今頃は、大好きな彼の誕生日を一緒に過ごしているはずだったのに・・・
私だって彼とゆっくり過ごしたかった。
久しぶりにお出かけしても良かったし、いっぱいキスしたり抱きしめたりして欲しかった。
なのに急に休日出勤になっちゃって、夜も忘年会と称した飲み会に誘われて、何度も断ったのに断りきれなくて・・・
ただでさえこのプロジェクトに携わるようになってから、仕事にかこつけてゆっくり彼と会えていなかったものだから、史上最強のカマッテチャンの英二くんをとうとう爆発させてしまった。
『なんだよ!仕事仕事って!そんなに仕事が大事なら、璃音なんか仕事と付き合ってればいーじゃん!』
そう言った英二くんの言葉を思い出す。
私、やっぱり彼に愛想尽かされてしまったの・・・?
そう思うと胸が締め付けられるほど痛んで涙が滲んだ。