第18章 【10年後の木の下で】菊丸英二
「ほら、おまえ等、テストすっから教科書しまえよな!」
そう言って教卓の上にばんっとまとめたプリントの山を叩きつける。
えー、抜き打ちかよー?そんな文句の声がクラス中から沸き起こる。
ここは青春学園中等部、大人になった今は教師として毎日ここに通ってる。
しかも体育教師じゃないよん?
オレの得意科目だった日本史の教師として、ネクタイ締めて毎日教壇に立ってんの。
「英二、機嫌わりー、なんかあった?」
「わかった!彼女と喧嘩したんだ!」
「公私混同すんなー!」
そんな生徒達の声に思わずピクッと顔をひきつらせると、図星だ、やっぱり、そう笑い声が沸き起こる。
コイツら、オレの機嫌の悪い原因を、よくもはっきり言ってくれたね?いーじゃん、やってやろーじゃん!
「今、笑ったやつら、マイナス10点だかんな!」
ちなみに80点未満は追試すっから、そう言って出席簿にチェックを入れると、ひでー!教育委員会に訴えてやる!そう生徒のひとりが頭を抱える。
「へんっ!教育委員会が怖くて教師なんかやってられっか!おまえはマイナス20点ね!」
「えー!オレ、もう追試決定じゃん!」
そう立ち上がる生徒に対し、100点とればいーじゃん?そうニヤリと笑ってプリントを渡し始めると、みんなブツブツ文句を言いながらもテスト問題に取りかかる。
(ほんと、英二、すごく機嫌悪いね?)
(テニス部の朝練でも散々しごかれたよ。)
そう内緒話をするヤツらを睨みつけながら、教室の窓際に移動し外を眺めると、そこには中庭の大きな桜の木があって、それを見下ろすと切なさが胸にこみ上げてくる。
璃音に出会って恋をして、それから想いを確かめ合ったその場所は
オレたちの始まりになった場所____
でも今は思うように会えなくて、あの頃のようにはいかないことくらい、頭ではちゃんとわかってんのに、それでもキラキラ眩しく青春している生徒達と過ごしていると、毎日一緒に過ごしたあの頃に戻りたいって思ってしまう。
はーっと盛大なため息を落とすと、英二、うるさい!って生徒達から怒られた。