第18章 【10年後の木の下で】菊丸英二
「璃音、前だってやっと会えたと思ったら、会社から呼び出されてすぐに帰っちゃったじゃんか!」
『ごめんなさい、仕事でどうしても私がいかなきゃいけなくて・・・』
「会えたって疲れてるって言ってすぐに寝ちゃうしさ!」
『本当にごめんなさい、仕事が落ち着いたらそんな事ないから・・・』
次から次と溢れ出す文句の言葉に、ひたすら『ごめんなさい』と『仕事』を繰り返す彼女の返事は、ますますオレをイライラさせて、とうとう頭の中でプチッと何かが切れた音がした。
「なんだよ!仕事仕事って!そんなに仕事が大事なら、璃音なんか仕事と付き合ってればいーじゃん!」
気が付いたら電話の向こうで必死に謝る彼女にそんな捨て台詞を吐いて、一方的に通話を終わらせると思い切り携帯を放り投げていた。
「なんだよ、今の女みたいなセリフ、カッコワリー・・・」
そうため息をついて、頭をワシャワシャとかき乱すと、床に転がった携帯がまたすぐになりだした。
その璃音から掛け直された電話にはとても出る気になんなくて、もう知らないもんねって無視をする。
『本当にごめんなさい、出来るだけはやく会いに行くから・・・』
着信が留守電になると、すぐにLINEにそんなメッセージが来たけれど、だから無理じゃん?そう思ったら余計に腹が立った。
既読スルーなんてしたの初めてで、少し心が痛んだけれど、璃音が悪いんだかんな!オレは悪くないかんな!そう思って自分を正当化して胸の痛みを納得させた。