第18章 【10年後の木の下で】菊丸英二
「なんでだよ!28日は仕事休みって言ったじゃん!」
11月28日はオレの誕生日。
今年の誕生日は珍しく土曜日で、仕事で忙しい彼女もその日は休めるって言っていた。
だからその日はオレも予定を入れないで、久しぶりにゆっくり璃音と過ごせるって思ってすんげー楽しみにしていたのに、直前になってのまさかのキャンセルの電話に思わず声を荒げる。
『ごめんなさい・・・休日出勤になっちゃって・・・』
「オレ、すんげー、楽しみにしてたんだかんな!いーっつも仕事仕事って!誕生日くらい一緒にいてくれてもいーじゃんか!」
本当は彼女の立場もわかってる。
入社3年目にして携わることになった大きなプロジェクト、先輩達の足を引っ張らないように、何か月も前からずっと頑張っている。
だから普段は寂しくたって我慢して、出来るだけ理解ある彼氏を装ってきたけれど、誕生日までドタキャンされたら、文句の一つも言いたくなるっての!
『本当にごめんね・・・?』
だけどそう必死に謝る彼女の顔が目に浮かび、そんな風に謝られたら、彼氏としては納得するしかないじゃん?
「わかったよ、仕事じゃ仕方がないし、でも終わったら会えんだろ?」
『・・・それがその・・・夜は取引先の人たちと忘年会が入って・・・』
なんだよ、それ!誕生日の彼氏放っておいて飲み会かよ!そう思ったらすんげー腹立って、んなの断ればいーじゃん!そうますます声を荒げてしまう。
『私も断ったんだけど、どうしてもって言われて断わりきれなくて・・・本当にごめんなさい、終わったらすぐに会いに行くから・・・』
「んなこと言ってたら誕生日終わっちゃうじゃん!」
飲み会なんてオレもそうだけど、璃音の会社だっていつも1次会じゃ終わらずに、たいてい2次会、3次会となだれ込んでは結局いつも御前様。
飲み会も仕事のうちってことくらいわかるけど、ずっと我慢していた反動でかーっと頭に血が登ぼり、気がつくと彼女を責める言葉がとまらなくなっていた。