第17章 【Valentine kiss】丸井ブン太
「な、泣いてなんかないわよ!」
ブン太の手を払いのけると、慌てて涙を拭う。
弱いところを見せたくなくて、キッと彼の顔を睨みつける。
「それが涙じゃないってんなら、いったいなんだって言うんだよ?」
「こ、これは・・・そ、その・・・心の汗よ!!」
・・・あ、すべった。
今のは、自分でもやばいと思った。
「ぶははは、何だよそれ?」
やっぱり・・・
案の定、ブン太は目の前でおなかを抱えて馬鹿笑いをしている。
「そ、そんなに笑うこと無いじゃない!」
「だってよ、お前、心の汗って何だよ?」
「うるさいわね!『われら青春!』よ!中村雅俊よ!最近、お父さんと一緒に昔の青春ドラマを見て熱くなってんのよ!」
もういいや、そう開き直って真っ赤な顔で怒鳴ると、いつまでも笑っているブン太にますます腹が立って、自分のカバンを持つ手にギュッと力を込めて、やつの頭を思いっきり殴った。
・・・殴ったつもりだったんだけど、当然のごとく身軽なブン太に交わされて、しかもきちんと留め金が閉まっていなかったらしく、最悪なことに彼のためのチョコが転がり落ちた。
ヤバッ!!・・・って思って慌てて拾って背中に隠したけれど、それはしっかりブン太に見られてしまったようで・・・
「なんだよ、ちゃんとあんじゃん?何で嘘ついたんだよ?」
「あ、アンタのじゃないわよ!」
「じゃあ、誰のだって言うんだよ?」
「誰のだっていいでしょ!だいたい、あんなに沢山の手作りチョコをもらってたんだから、こんなのいらないでしょ!」
あ、しまった・・・
勢いあまって、私、凄く余計なこと言った・・・そう後悔しても時既に遅し。
ブン太はすべてを見透かしたようにニヤリと笑って私を見ている。
「あぁ、お前、俺が他の子からチョコもらってヤキモチやいてんだろぃ?」
そう、楽しそうに私の顔をのぞき込むブン太に、な、なに、バカなこと言ってんのよ!そう顔を背けて頬を膨らませたけれど、そんな私の様子を彼はますます面白そうに覗き込んだ。