第17章 【Valentine kiss】丸井ブン太
「おい、ちょっと待てよ!」
路地を曲がったところで呼び止められて、思わずビクッと身体が反応する。
今1番、聞きたくない声、見たくない顔・・・
なによ?、背を向けたままそう静かに返事をする。
「何で帰んだよぃ?お前、忘れちまったのか?」
「・・・別に忘れ物なんかしてないわよ?」
「違うだろ!俺、まだお前からチョコもらってねぇ!」
は?あれだけの女の子からもらっておいてまだ足りないっての?そう思ってギュッと拳を握りしめる。
だいたい、わざわざ追いかけてきて・・・あの女の子達どうしたのよ?
その気がないならほっといて欲しいんですけど!
どこまで私を期待させれば気が済むの?
こんなの、ますます惨めになるだけじゃない・・・
また一滴、涙がこぼれ落ちた。
「あのねぇ、考えておくって言っただけでしょ?考えた結果、あげないことにしたの!文句ある!?」
あふれる涙を悟られないように必死に髪の毛で顔を隠しながら、そんな風にぶっきらぼうに言う私に、何だよそれ・・・ってブン太は珍しくイラッとした声を上げる。
重い沈黙が2人の間を包み込み、いたたまれない気持ちで痛む胸をギュッとおさえると、用はそれだけ?そう言ってそのまま急ぎ足でその場から離れる。
逃げるように走り出すと、待てよ!そうブン太が追いかけて、私の肩をガッとつかんだものだから、勢い余ってブン太の顔を見てしまい、そんな私と目があった彼は凄く驚いた顔をした。
「・・・おい、璃音、お前、泣いてんのか?」
!!
気付かれた!絶対ばれたくなかったのに!!
張り裂けそうな胸の痛みと同じくらいブン太に掴まれた肩が痛んで、またどうしようもなく涙があふれた。