第17章 【Valentine kiss】丸井ブン太
____そして本日のこの目の前の光景。
ブン太にとって、あの日の会話に特に深い意味はなく、私1人その気になって舞い上がっていたのかと思うと、自分自身に腹が立つやら呆れるやら・・・
ふーっとまた大きくため息をついた。
「相変わらずだな、ブン太の奴は・・・」
「本当ね~・・・あ、ジャッカル、はい。」
頬杖をついてブン太を・・・正確には彼を取り囲む女の子たちを見たまま、ジャッカルにチョコを放り投げるように渡す。
「あぁ、サンキュー・・・みんなに配ってるのか?」
「ま、レギュラーくらいにはね。コンビニで買った300円ので悪いんだけどさ。」
「何を言っている!1つ300円でも8人に渡せば2400円だ。それに消費税も・・・」
お前も大変だな、そう涙を流すジャッカルに、ジャッカルが泣くことないよ・・・?なんて返事しながら、相変わらず苦労しているのねって苦笑いをする。
ジャッカルにだけお惣菜にすればよかったかな?なんてちょっと後悔。
「もう他の連中には渡してきたのか?」
「あ~・・・・ま、ね。」
カバンの中に入っている1つだけ違うラッピングのチョコ。
ブン太用に昨夜、遅くまで頑張った手作りのチョコ・・・
それを渡すべき相手は、相変わらず女の子達に囲まれていて、その女の子達に混ざって自分がチョコを渡す姿をうっかり想像しちゃって、恐ろしいほどの悪寒が走りブルっと身震いする。
「な、いきなりどうした?」
「・・・いや、なんでもない・・・私、帰るわ。」
本当にこれサンキューな、そうもう一度お礼を言ってくれたジャッカルに、じゃーねと手を振りカバンを抱えて学校を後にする。
いつもより仲良さそうな男女が目に付くのは、バレンタインだから仕方がないことだけど、妙にムカムカするのは気のせいだろうか?
そうだ、気のせい。
あの日以来そわそわして落ち着かなかったことも、さっきからどうしようもなく痛むこの胸も、それからこうして目からこぼれ落ちた水滴も・・・
全部・・・全部、気のせい____