第17章 【Valentine kiss】丸井ブン太
____その日、私とブン太は日直で、放課後の教室で2人、向かい合って日誌を書いていた。
・・・といっても実際に書いているのは私だけで、ブン太はイスの背もたれを抱えて座り、いつものように噛んでいるガムをぷぅっと膨らませながら、ぼ~っと私の書く日誌を眺めているだけだったけど。
「そういや、もうすぐバレンタインだよな。」
「・・・あぁ、そうねぇ。」
長い沈黙を破ってブン太が何でもないことのように言うから、私も視線を日誌に向けたまま特に何も考えずにそう答えた。
「お前、もちろん俺にチョコくれるよな?」
「え~・・・あげるよ、レギュラーのみんなにも・・・」
「そんなんじゃなくてよ~、手作りのやつ。」
手作り、なんて言われたものだから、は?って思って、さすがに日誌を書く手を止めてブン太をみると、彼は顔色ひとつ変えずに私の顔をジッと見ていて、言われた私の方が何故か焦ってしまう。
「・・・な、なんで私がアンタに手作りチョコあげないといけないのよ?」
「そんなの、俺が食いてぇからに決まってんだろぃ?」
「ブン太なら、沢山の手作りチョコ、もらえるでしょ!」
「そりゃもらえるけどよ~、俺はお前が作ったチョコが食いてぇんだよ。」
は・・・?私が作ったチョコを食べたいって・・・
それじゃまるでブン太が私のことを好きみたいじゃないか。
・・・いや、そんなはずはない。
部活で3年間顔を合わせているけれど、ブン太と私の間に恋愛感情が芽生えるような甘い雰囲気は皆無だったし、私もブン太に対して、そんな風に思ったことは1度もなかった。
けれどそんなふうに言われて嫌な気持ちは全くなくて、むしろ目の前にいる癖のある赤い髪の少年を、妙に意識しちゃっている自分に気がついて・・・
「・・・ま、考えておいてあげるわよ。」
「おぅ!楽しみにしているぜ、シクヨロ。」
高鳴る胸と赤くなる頬を悟られないように、そんな風にぶっきらぼうに答えるのが精一杯の私に、ブン太はいつもの調子でニイッと笑ったのだった。