第10章 【Can you marry me?】 手塚国光
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控室のドアがノックされ、どうも、と越前が入ってくる。
1人か?ときくと、小宮山さんは邪魔になるから来ないそうっす、と言うので、そうか、とだけ答えた。
残念っすね、と言うから、何がだ?と答えると、ほーんと、2人とも素直じゃないんだから、と越前が笑った。
素直じゃない・・・確かにそうかもしれない。
試合前はどうしても神経を遣う。
1人で集中したいのは確かだ。
でも一刻も早く顔が見たい、会って抱きしめたいという想いも嘘ではない。
2つの想いが複雑に交りあう。
そうそう、小宮山さんからこれ預かったっスよ、そういって越前が紙袋を差し出す。
開けてみるとそこには懐かしい旧友達が寄せ書きした青学の校旗が入っていた。
一人ひとり顔を思い出しながら寄せ書きに目を通す。
最後に目に入ったメッセージを見て口元が緩む。
ふーん、男心わかってんじゃん、そう越前が後ろから覗き込む。
美しく整ったその字で書かれていたのはたった一言
愛してる____
日本に帰れるのは年に数回程度。
けれど電話もメールも最低限のみ。
本当は寂しいだろう、もっと頻繁に連絡したいだろう。
それでも俺のことを考えて自分を抑えてしまう彼女。
そんな彼女にどうしても伝えなければならない言葉がある。
「越前、アップする、付き合え。」
「最初からそのつもりっすよ。」
「全力で行くぞ!」
「ウィ―ッス。」
そして越前とのアップの後、俺はウィンブルドンのセンターコートへと向かった。
幼いころからの夢ともう一つの夢
二つの夢を叶えるために____