第10章 【Can you marry me?】 手塚国光
越前くんにホテルまで送ってもらうと、そうそう、と持ってきた寄せ書きを取り出す。
「気分悪かったら言ってね?良かったら越前くんも書いてもらえないかな?」
「別にいいっすよ?」
越前くんは、次は絶対俺が勝つッスと書いたから、次も国光は負けないよ?なんて言って笑った。
それから、次は俺の分のチケットもよろしく頼んます!って桃先輩らしいっすねとか、俺たち全員の夢を叶えてくれって大石くん相変わらずだねとか、みんなの寄せ書きを2人で眺めて笑った。
「つぅか、小宮山さんは何も書かないんすか?」
「んー・・・色々悩んだんだけど、なかなかしっくりくる言葉が見つからなくて・・・」
「でも書いた方がいいっすよ?明日、迎えに来るんでそれまで書いておいてください。」
だから迎えはいいってばって言ったら、やっぱり国光に怒られるからって。
俺、グラウンド走りたくないっすからって言うからまた笑った。
越前くんが帰り一人になると、会いたい気持ちに拍車がかかる。
本当は今すぐ会いに行きたい、そんな気持ちを押し殺し、無事着いたよ、とだけメールした。
それですら精神統一しているだろうから、集中力を欠いたら申し訳ないし悩んだんだけど、心配するかも?と思って送った。
彼からは、そうか、と簡単な返事のみでやっぱり電話しなくて良かったとほっとした。
それから寄せ書きの前で腕を組んで悩む。
頑張ってね、も、応援しているね、も、なんか違う気がする。
散々悩んだ結果、一言だけそっと隅に書き足した。
* * *
次の日、迎えに来てくれた越前くんと会場に向かう。
センターコート最前列と言ったら、手塚部長頑張ったっすねって言われた。
越前くんはチケットあるの?って聞いたら、選手控室で見るって。
なるほど、選手はその手が使えるのね、って言ったら、小宮山さんも手塚部長の控室で見れば?って言われた。
でも私が行ったら邪魔になるし駄目だよって言うと、越前くんはふーんとだけ言った。
会場につくと越前くんに寄せ書きを託した。
顔くらい見せてやれば?って言われたから、だから邪魔になるよって笑って自分の席にむかった。
最前列に座るとコートが本当に目の前で、もうすぐここで彼のプレイが見れると思うと自然と涙が出てきた。