第31章 【菊丸の憂鬱】菊丸英二
パンっと両頬を叩いて気合を入れる。
誰か、オレのこと、殴って!、そうみんなを見上げて声を上げる。
その瞬間、みんなの容赦ない鉄拳が飛んできて、いってー、なんて頭をおさえて声を貼りあげる。
だけど、本当に痛い訳じゃなくて、痛いのはふたりを疑った自分の心で、でもそれと同時に嬉しすぎて・・・
自然と顔がにやけてしまう。
「・・・英二、良かったでしょ?、決定的な言い逃れのできない証拠、ちゃんと掴んで。」
顔を上げると、そこには僕を見下ろしクスクス笑う不二・・・
ああ、きっと、不二はこうなること、ちゃんと分かってたんだろうな・・・
「・・・ん、あんがとね、オレ、あのまま帰んなくてほんと良かった・・・」
オレには分かんなかったのに、不二には全部お見通しだったことが悔しいけど、でも今は素直に感謝できる気分で・・・
それは、不二だけじゃなく、周りでにゃーっと、面白がってオレをみている周りのヤツらにも同じで・・・
なんだよ、お前ら、なんて迷惑そうな顔をしても、やっぱ嬉しくて・・・
「英二先輩!、俺、腹減ったっす!、ハンバーガーでいいっすよ?」
「なんでそうなるんだよー?、でも、まぁいいや、今日はいくらでもこの菊丸様がおごっちゃる!」
結局、お前ら、ほんと、容赦ねえな、なんて空の財布を覗きながら肩を落とすことになったんだけど、それでも、心はとても満たされていて・・・
来たるべく、オレの誕生日に、璃音ちゃんから貰える沢山のプレゼントを想像すると、勝手に顔がにやけてきて・・・
「英二、いつまでもそんな顔してると、小宮山さんに尾行してたのバレて嫌われるよ?」
「ひいっ!気をつけるにゃ・・・」
不二の不吉な言葉に、必死に締まりのない顔を引き締める。
気をつけなきゃ・・・璃音ちゃんにバレないように・・・
もちろん嫌われたら嫌だけど、それより、折角璃音ちゃんがオレを喜ばせようと頑張ってくれるのに、本当は全部知ってた、なんて分かったらガッカリさせちゃうじゃん?