第31章 【菊丸の憂鬱】菊丸英二
「・・・英二、逃げ出すのはまだはやいよ?」
ずっと黙ってオレ達の様子を眺めていた不二に手を掴まれる。
まだはやいって、なんだよ、そう恨めしく思ってその顔を眺めると、不二はクスクス笑っていて・・・
ああ、そうだよな、不二はそういうやつだよな!
人の苦しむところを見るのが大好きなヤツだよっ!
「やだよ!、オレ、もう帰る!」
「まぁまぁ、完全に言い逃れのできない証拠を掴んでからでも、遅くないよ?」
完全な言い逃れが出来ない証拠って・・・
もっと仲良いところを見せられるってことかよ?
冗談じゃないっての!!
だけどオレの意思なんて全く関係なくて、良いデータがとれそうだ、なんて不二と同じように乾もメガネを光らせて笑うし、そうっすよ、英二先輩!、やる前から逃げちゃーいけねぇなぁ、いけねぇよ、なんて桃は言うし、気がついたらまた羽交い締めにされていて・・・
「だから嫌だってば!、もういいんだって・・・んぐ!」
「英二、ゴメン!」
「往生際が悪いっすよ?」
抵抗も虚しく、今度はみんなにズルズル引きずられながら、ふたりの元へと向かうこととなった・・・
「・・・ったく、お前ら他人事だと思って、性格悪いぞ!、人の不幸を楽しんで・・・」
(しー!、英二、静かに!、見つかっちゃうよ?)
もういいよ、見つかったって、そう唇に人差し指をあて微笑む不二を恨めしく睨みつける。
あの後、引きずられながらもこっそり店内に潜り込み、今いるのはショーウィンドウの隣の通路。
ちょうどこの棚の向こうでは、大石と璃音ちゃんが楽しそうに商品を物色してる。
オレと言ったら、もう抵抗する気力もなくて、ぼんやりと棚に背中をあずけ、しゃがみこんでいて・・・
みんなはそんなオレを他所に、押すなよ!、押してねぇ!なんて囁き声で喧嘩しながら、棚の向こうを眺めている。