第31章 【菊丸の憂鬱】菊丸英二
「あー、もう、ムシャクシャする!、不二、ちょっと打ってかないー?」
「別に構わないけど・・・あ、ちょっと、ゴメン。」
ダッフルのポケットから携帯を取り出した不二は、乾だ、そうディスプレイを見ながら呟くと、もしもし?、そう言って通話を受ける。
乾、何の用だろ、なんてぼんやりと考えるオレの耳に聞こえたのは、デート?、そんな不二の驚く声。
おっ!、なになに?、条件反射で身を乗り出した不二の携帯の向こうからは、乾だけじゃなく、桃やおチビ、タカさんなんかの声も聞こえていて、おい、見つかるだろ、押すなよ、そんなざわめきに、みんなで何してんの?なんて目を輝かせる。
『ああ、デートの尾行中だ。どうだ?、不二も一緒に・・・』
「クスッ、またやってるの?、悪趣味だなぁ。」
『そんなことは無い、これもデータ収集のため・・・それからこのことは菊丸には内密に。尾行の相手は大石と小宮山さんだからね・・・』
英二には内密にって・・・、そうチラリと不二がオレの顔を伺いみる。
だけど、電話の向こうの乾の声は、しっかりオレの耳にも届いていて・・・
サーっと全身から血の気が引いていく。
「大石と璃音ちゃんがデートって、どういうことさ!?」
不二の手から携帯を取り上げると、もしもしー!?、そう慌てて通話の向こうの乾に呼びかける。
そんなはずない、だって璃音ちゃんは今日、お母さんと出かけるって言ってたし、大石は塾の模擬テストなんだ。
そんな二人が一緒にいるなんてこと、有り得るはずないじゃないじゃんか!
もしそれが本当なら、ふたりは示し合わせてオレに嘘をついたってことで・・・
それってつまりは、大好きなふたりがオレを裏切ったってことで・・・
そんなはずない!、そう慌てて頭を振り、嫌な考えを追い払う。
「乾!、どういうことだよ!」
声をはりあげ通話の向こうの乾を問いつめると、そんなオレの叫び声が聞こえたのか、いい!?、英二先輩にバレちゃったんすか?なんて桃の焦る声が聞こえた。