第31章 【菊丸の憂鬱】菊丸英二
「あ、菊丸くん、大石くんなら今、学級委員の仕事で・・・」
「マジでー?・・・あの先生、厳しいんだよにゃー・・・」
悪いけど、璃音ちゃん、貸してくんない?、顔を両手の前で合わせながら、チラッと上目遣いで伺うと、璃音ちゃんは目をパチパチさせて、はい、どうぞ?、そうクスクス笑いながら貸してくれた。
璃音ちゃんから借りた教科書、ページをめくる度に璃音ちゃんの甘い香りが辺りに広がって・・・
授業になんかちっとも集中出来なくて、それから、我慢も出来なくなった。
衝動的にその日にやったページの「す」と「き」の文字を、全部ハートで囲んで印をつけた。
璃音ちゃん、これ、オレの気持ち!、そう言って帰した教科書・・・
不思議そうに首をかしげながら開いた彼女は、一瞬、驚いた顔をして、それからポンっと顔を赤くした。
「あ、あの、こ、これって・・・」
「璃音ちゃん、オレと付き合ってよ!」
そんなオレの告白に、教室中が沸き上がって、璃音ちゃんはあたふたしていた。
英二!、こんな人が多いところで!、そう大石に怒られて、借りた教科書に落書きするなんて!ってもっと怒られて・・・
落書きじゃねーもん、ラブレターだもん、なんて思いながら、やっぱまずかったよなってそこは素直に反省して、ちゃんと消すんだ、そう腕組みしてる大石の前でちっちゃくなって消そうとすると、あ、あの!、そう真っ赤な顔した璃音ちゃんに止められた。
「菊丸くん・・・お願い、そのままにしてて?」
「へ・・・?、でも・・・」
「う、嬉しかったから・・・菊丸くんの気持ち・・・私、嬉しかったから・・・だから・・・」
真っ赤な顔で「嬉しかった」を繰り返す璃音ちゃんの顔を、目を見開いて見つめた。
嬉しかったの、そうまた呟いたその身体に、やっほーい!、そう言って抱きついた。
だって、それって、オレの気持ちを受け入れてくれたってことじゃん?
これが抱きつかずに居られるかっての!
教室中から祝福されて始まったオレ達の関係、あれからずっと幸せだったのに・・・