第31章 【菊丸の憂鬱】菊丸英二
「大石、大石、大石ー!!英語の教科書貸して貸して貸してぇーーー!!オレ、今日、授業あるなんてすっかり忘れちゃっ・・・てて・・・」
いつもの様に忘れ物を借りに来た大石のクラス。
だけど、ちょうど入口から大石が出てきて・・・
あれ、大石、どっか行くの?、そう聞いた瞬間、目に飛び込んできたのは見知らぬ女の子・・・
大石の後ろからオレと目が合って、その瞬間、ぺこりと可愛く頭を下げた・・・
「ああ、悪い、英二。彼女は転校生の小宮山璃音さん、これから彼女に校内を案内してあげることになってるんだ。悪いけど勝手に持って行ってくれないか?」
「あ、うん・・・分かった・・・」
正直、もう忘れ物のことなんか吹っ飛んでいた。
代わりに頭の中は目の前の「小宮山璃音」ちゃんでいっぱいで・・・
「・・・英二、大石に教科書借りれなかったの?」
「あー・・・うん・・・」
ぼんやりとしながら教室に戻ったオレを、不二が怪訝そうな顔でのぞき込んだ。
そんな不二の声も、授業中に何度も掛けられた先生の注意の声も、全くオレの耳には届いてなくて・・・
ぼんやりと大石の後ろで、はにかんだ璃音ちゃんの顔を思い出していた。
それからはオレの璃音ちゃんへの猛アタックが始まった。
璃音ちゃんは大石の隣の席で、わざと忘れ物をして大石に借りに行って、その度に璃音ちゃんに話しかけて・・・
最初は、璃音ちゃんは相当警戒して不安そうな顔をしていて大石の影に隠れてばっかで、その度に「英二、迷惑だろ!」なんて大石には怒られるし、もしかしてふたりは好きあってんのかな?って落ち込んだりして・・・
だけど、すげー璃音ちゃんのこと好きになってたから、負けないもんね!って懲りずに毎日通ってる間に、璃音ちゃんも少しずつ心を開いてくれて・・・
そんでもって、やっとオレの冗談に笑ってくれるようになった頃、わざと大石が居ないときを狙って忘れ物を借りに行った。