第31章 【菊丸の憂鬱】菊丸英二
「そっか、じゃ、仕方ないね、でも明日はぜーったい一緒に帰んだかんな?」
「うん、うん、明日は必ず!」
本当にごめんね?、そう璃音ちゃんは何度も振り返りむいては謝りながら帰っていく。
本当は璃音ちゃんと楽しく帰りたかったけど、大好きな璃音ちゃんに嫌われたくないから、渋々納得する。
「ちぇー、つまんねーの、じゃあ、大石・・・」
「ああ、悪い、英二。今日は塾の模擬テストで急ぐんだ。」
ため息をついて大石に視線を向けると、肝心の大石はオレの誘いを最後まで聞かず、あっさりと荷物をまとめて帰っていく。
なんなんだよー!大石までー!?、大声を上げてその場で頭を抱えた。
「ったく、なんて日なんだよー、璃音ちゃんも大石も忙しいなんてさー!」
つまんないー、そう後頭部で頬をふくらませるオレの隣で、だったらカラオケに行けばよかったのに、そう不二が呆れたように笑う。
そりゃ、クラスメイトたちのカラオケに行ってもよかったんだけどさ、璃音ちゃんにデートを断られて、大石にも冷たくあしらわれたら、なんか楽しく盛り上がる気分になんなくて・・・
「あれ?、英二、一人?、さては小宮山さんに振られたね?」
トボトボと一人帰るオレに声をかけてきたのは、言わずもがな不二で、相変わらず人の不幸を喜ぶ笑みを浮かべてきたから、そんな不二を恨めしくにらみつけた。
だけど、不二に文句を言ったって、なにもいい事なんかないのは分かっていて、結局、そのまま並んで歩き出した。
「小宮山さんと付き合い始めて、そろそろひと月だっけ?」
「あー、うん、そだね、夏休み明けに璃音ちゃんが転校してきたから・・・」
「英二が一目惚れして、大石のクラスに通い詰めたんだよね?」
「うんにゃー・・・あの頃は必死だったにゃー・・・」
璃音ちゃんを好きになったのは、二学期が始まった9月の初めの日。
初日から忘れ物をしたオレは、慌てて大石のところに借りに行った。