第31章 【菊丸の憂鬱】菊丸英二
「おい、英二、今日、カラオケ行くんだけど、お前も一緒に・・・」
「ごめーん、オレ、急ぐからっ!じゃーねー!」
終了のベルが鳴ると、クラスメイトへの誘いを幌ろに断わり、教室をあとにする。
なんだよ、付き合いわりーな、なんて不満の声が聞こえたって構わない!
オレは今、クラスメイトと遊ぶより、ずっと楽しく夢中なことがあるんだから!
「やっほー、璃音ちゃん、一緒帰ろー!、今日、どこ寄り道してくー?」
飛び込んだのは4つ先の教室。
そこは親友の大石のクラス。
そして、オレの可愛い彼女、大好きな璃音ちゃんのクラス!
璃音ちゃんはオレがこうやって会いに行くと、いつも恥ずかしそうに頬を染めて、だけど嬉しそうに笑って迎えてくれるんだ。
菊丸くんって可愛い声でオレを呼んでくれて、だーかーらー、英二だってば!なんてオレが頬をふくらませて・・・
そんでもって、行こ?ってオレが手を差し出すと、うんってその手を取ってくれるんだ。
「・・・あのね、菊丸くん、その・・・ごめんなさい!」
満面の笑みで伸ばした手のひら。
ほーらね、璃音ちゃん、嬉しそうに取ってくれただろー?
ごめんなさいって、こんなに眉を下げて・・・
ごめんなさい・・・?
・・・
・・・・・・
・・・って、ええーーーーー!?
予想に反して今日の璃音ちゃんは顔の前で両手を併せて、申し訳なさそうに頭を下げる。
こんなことなんか今まで無かったから、一瞬、意味がわからなくて、へ?って顔をかたまらせる。
「あのね、今日、どうしても用事があって・・・」
「だったらオレ、その用事に付き合うよん?」
「え!?、いいの!、あの、お、お、お母さんと一緒だから!!」
そっか、お母さんと出かけるんなら仕方が無いよな・・・
男のオレは、もうかーちゃんと出かけるなんてこと、あんまなくなったけど、女の子はうちのねーちゃん達もそうだけど、何歳になってもかーちゃんと姉妹みたいに仲良いいし・・・