過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 後編】
第9章 逢いたい
幾つもある地下牢の一番奥から仄かな灯りが漏れ出ているのに気づき、
ナナシは一度足を止め気配を探る。
気配を探るとやはり一番奥からエルヴィンの気配を感じ、
ナナシは知らずゴクリと唾を飲み込んだ。
恐る恐る歩を進め、物陰から奥の牢屋を覗くと、
そこには少し憔悴したエルヴィンが黙々と書類仕事をしている姿が見え、
ナナシは暫くの間その様子を見つめた。
蝋燭があるとはいえこんな暗がりで、
しかもジメジメとした狭い空間では身体に良くないだろう。
何故エルヴィンは敢えて地下牢を選んだのか・・・。
そこまで考えてナナシは自分のせいか、という結論に至る。
ナナシの傷が癒えないまま無茶をして兵団を飛び出すより、
逃げ出す原因を作ったエルヴィンが自ら閉じ籠もってしまった方が、
ナナシが安心して養生出来るのではないかと考えたのだろう。
ナナバの言葉からもそれは窺えたので、
自分の為の行動だと理解できるが、
だったら最初からあんな事するな!と憤慨しそうになる。
「・・・・・・・・・・」
エルヴィンを見たら殺意が湧くかと思ったのに、
出て来た感情が全く別物だった事に落胆しながら
ナナシは地下牢を後にした。