過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 後編】
第28章 ナナシの余命
確かに聞きようによっては兵団に留まるようにという嘆願だが、
これまでの流れやエルヴィンのナナシへの過剰な愛情を
鑑みれば愛の告白以外の何物でもないだろう。
エルヴィンはショックの余り、笑顔のまま固まってしまった。
この微妙な空気を壊すように爆笑したのは、
ハンジではなくジャックだった。
「ふははははは!そうですね!雇用契約!まさにそれです!
流石我が主!では、その雇用契約が終わるまで我ら従者は
ナナシ様を静かに見守ることに致しましょう。
薬に関しても何とか調達出来ないかやってみます」
「あぁ、頼んだぞジャック」
「お任せ下さい」
ナナシ命の従者としては『プロポーズ』より
『雇用契約』を受けたとした方が都合が良いらしい。
固まる調査兵団一行を尻目に、ジャックは軽い足取りで
ドアの方に向かったが、ふと振り返るとエルヴィンに釘を差した。
「『雇用契約』ですので、ナナシ様に手を出した場合、
お覚悟下さいませスミス様。それでは失礼致します」
ジャックが去った後も、室内の時間は暫くの間止まったままだった。
エルヴィンはショックから時を止め、
リヴァイ達はそんなエルヴィンにどうリアクションして良いか
わからなかったからだ。
ハンジですらここでいつものように笑い飛ばしたらヤバイと
本能で察知し、気まずそうに視線を床に落としている。
そんな空気を物ともしなかったのは元凶を作ったナナシだった。