過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 後編】
第26章 最後の眷属『ヤンデレ』
だが、ナナシの薬が楯に取られてしまっている今、
離れる事が最善だろう。
そして隙を突いてヒモロギから薬を取り戻す。
何の薬かはエルヴィンにはわからなかったが、
彼らの話からナナシにとっては重要な薬なのだと察せられた。
万が一に備え、エルヴィンは腕輪を外す。
心配そうにエルヴィンを見た後、ナナシはゆっくり離れて行ったが、
ヒモロギに近づこうとはしなかった。
それを見たヒモロギはナナシに対し苛立ちを募らせる。
「何やってんの?ナナシ。こっちに来るんだ!」
「そっちに行って・・・どうすると言うのだ?」
「俺にキスして?」
両手を広げて待ち構えるヒモロギにナナシは動きを止める。
昔はこんな奴では無かったのに・・・という悲しい思いが
胸を締め付けた。
立ち止まったまま、いつまで経っても動かないナナシに、
ヒモロギは「もう良いよ」と首を横に振って、
マッチに火を点ける。
「最初からこうすれば良かった・・・。薬が無きゃナナシは
実家に戻らないと生きてけないもんね。うちの連中もこんな薬渡さず、
力づくでナナシを連れ帰れば良かったのに本当に馬鹿な奴らだ」
「やめっ!」
エルヴィンが制止の声を上げたが、無情にもヒモロギは
薬を火で焼いた。
呆然とするナナシに対し、可笑しそうに高笑いする彼は
壊れているとしか言い様が無い程、狂っている。
一通り嗤うとヒモロギは狂気に孕んだ眼でエルヴィンを見据えた。