過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 後編】
第16章 襲われる
「凄惨な光景を見続けると、取り憑かれるものでな・・・。
命の尊さを忘れてしまうものだ。お主はそうなるな」
「・・・・・・・・」
その場にいた全員が息を呑み押し黙った。
エルヴィンの考えている事が読まれていた事にも驚いたが、
それ以上にこの言葉は皆に重く伸し掛かった。
確かに自分達は多くの命を失い過ぎて、
そういう認識が麻痺していたかもしれない。
他の兵団や市民より命の重みをわかっていたはずなのに、
ナナシの言葉で人としてあらねばならない認識に気付かされた。
何かを成すためには犠牲はつきものと思う事自体が既に異常で、
何時いかなる時でも命の尊さを忘れてはならないと。
エルヴィンは貼り付けていた笑みを外し、
睨むようにナナシを見つめた。
「君は・・・襲われたんだぞ?」
それでも許せと言うのか?と口外に告げると、
ナナシは皮肉交じりに言った。
「・・・・そうだな。お主にも襲われた」
「・・・・・・・」
エルヴィンはグッと言葉を詰まらせるしかない。
ナナシにとってはエルヴィンも四人の兵士も同じなのだと
言われているようで、エルヴィンは心の中でこっそり凹んだ。
自分はナナシが好きで好きで、どうしようもなく愛しまくっていて、
愛が暴走しただけなのに、それを嫌がらせで襲い掛かってきた奴らと
一緒にされたくなかったというのが本音だった。