第8章 【卒業編】
この日が来なきゃいいのに、ずっとそう願っていた。
毎日、毎日・・・
「卒業式の日になりませんように」 そう神様にお願いしていた。
でも当然、そんな願いなんて叶うはずもなく・・・
今日、英二先輩が、青春学園中等部を・・・
卒業します___
「卒業」
式は何事もなく終わり、校内は沢山の生徒達で賑わっている。
部活だったり、クラブだったり、委員会だったり・・・
みんなそれぞれ、お世話になった先輩方との、最後の別れを惜しんでいる。
私達男子テニス部も例外ではなく、みんなテニスコートに集まって、三年生の先輩方がくるのを待っている。
私は、みんなから少し離れたベンチに1人で座ると、ぼんやりと目の前のコートを眺めていた。
このコートで初めて英二先輩に出会って、そして恋をした。
最初は見ているだけで精一杯で、だけど、いつしか先輩後輩という立場から、恋人同士になれて・・・
それからずっと、先輩は私の隣で笑っていてくれた。
楽しいときや嬉しいとき、いつも二人で笑いあえた。
悲しいときや落ち込んだとき、いつも手を握ってくれた。
このコートには・・・私の隣には・・・
いつもまぶしい先輩の笑顔があった。
・・・でも、これからはここに先輩はいない。
その笑顔が見たくても・・・声が聞きたくても・・・
その手に触れたくても・・・先輩はすぐ隣にはいてくれない・・・
ねぇ、神様・・・
どうして私をもっと早く、生まれさせてくれなかったの・・・?
私が4月1日までに生まれていたら、先輩と一緒に卒業できたのに・・・
先輩・・・苦しいよ・・・
制服のスカートの裾をぎゅっと握り空を仰ぐ。
涙がこぼれ落ちないように見上げたその空は、今にも雨が降りだしそうな・・・そんな灰色に見えた。