第1章 chess
美しいステンドグラス、光を浴びて七色に輝き教会内を照らし始める。
一人の男がゆっくりと壇上へと近付いて行く。彼が通り過ぎる人の中には、すすり泣いている人もいた。彼はミルクティー色の髪を揺らしながら、少しだけ長い前髪を横に流して桜色の瞳を覗かせる。
純白のドレスに身を包み、白い花に囲まれて眠る女性の前へとやってくる。その瞼が開かれることはない。しっかりと閉じられて、眠る彼女に彼は手にしていた百合の花を捧げた。
「おやすみなさい」
終わりも始まりも呑み込んでいく白に埋もれながら、返事のない彼女に背を向けた。
夢ならどうか醒めてくれ。そう、今すぐにでも。けれど誰も嘘だとは言ってくれない、これは夢だから大丈夫だと。扉を開けて飛び出した外の世界は、とびきり天気がいい。馬鹿みたいに晴れている。そう、馬鹿みたいに。
何もこんな日に、快晴でなくてもよかったのに。余計にこれは現実なのだと実感せざる得ない。
「おーい、もういいのか?」
声をかけられたと思えば、教会の前に一台の黒い車が停まっていた。車と同じ色のスーツを着た男が、煙草を咥えながらこちらへと手を振る。
「ええ、もういいんです」
スーツの男は「そうか」と目を伏せると、ゆっくり近付いて来る。と思えば、茶封筒を何食わぬ顔で渡してきた。