第1章
妙に無邪気なその人の言葉で、私は自分が追い込まれている事を改めて理解する。
異様な状況はまだ続いているのだ。
斉藤 一
『さあな。……少なくとも、
その判断は俺達が下すものではない。』
『え……?』
判断を下す人はまだ他にいる、ということ?
彼らの言動に組織的な気配を感じると共に、
浅葱色の隊服を着込んだ集団の話を思い出す。
『まさか――――』
その時不意に、ふっと影が差した
『あ……』
なびく漆黒の髪に、私は息を呑んだ。
きらりと降り注ぐ月の光
その輝きが私は何故か、
舞い散る花びらを思い起こされた。
まるで、狂い咲きの桜のような―――
?
『―――運の無い奴だ。
いいか、逃げるなよ。背を向ければ斬る』
静かな宣告がおどしではないとわかったから、私は首を上下にしうなずいた。
すると彼は思い切り眉間にシワを寄せて、
苦々しげに深いため息を吐いたのだった。