第3章 想定外。
「なんか今日の如恵留気合入りまくり~」
「仲ちんウルサイよ!」
ストレッチ中に仲間に茶化される。
それでも悪い気はしない。
「何?いいことあった?」
「シメも早くストレッチしろよ!」
ありすさんの席はどの辺りかな?
聞くとそこばっかり向いてしまいそうで聞けなかった。
「なになにー?」
「あ、美勇人!聞いてよ、如恵留がさ~」
ニコニコしながら隣に座る美勇人。
駄目だ。
やっぱり今まで通りには出来ない。
意識、しちゃうよ…。
ありすさんが見てるのはこいつだって…。
「俺の話はどうでもいいから、お前ら早くストレッチしろって!」
゛今日もお疲れ様でした。かっこ良かったです!゛
帰る準備をしている時に届いたメール。
やばい、嬉しい。
つい、口元が緩んでしまう。
「飯行く人ー?」
「焼肉?」
ワイワイ言いながらドアを開ける。
そこには今日もたくさんのファンが待っている。
ありすさんは…?
帽子をかぶり直しながら目線だけでキョキョロと探す。
「っ!」
美勇人の方を向いて立っている。
現実だ。
これが今の現実なんだ。
彼女の瞳にはやっぱり美勇人しか映っていない。
つらい。
つらい。
つらい。
さっきのメールは本当は美勇人に送りたい言葉なんだ。
きっと、そうなんだ。
俺はまだありすさんの視界に入っていない。
もっと頑張らないと。
もっともっと頑張らないと!
゛今日は休演日ですね。ゆっくり寝て、リフレッシュしてください!゛
メールで目が覚めたのはお昼近く。
せっかくの休みなのに午前中無駄にしてしまった!
休みの日でも体を動かしてないと、明日またしんどい。
お気に入りのロードバイクで買い物とランチにでも行くか。
゛おはようございます。ありがとう、ゆっくりします。゛
風を切って街中を進む。
電車で来る時とは違った景色が何とも言えない。
新しい発見とか、好みの店とか、意外なところで出会う。
この先に気になるお店があったはず。
確か角を曲がって直ぐだったと思うけど…
ケータイが着信を告げる。
「え?ありすさん?」
慌てて自転車を止め通話ボタンを押す。
「もしもし?」