第2章 新しい自分。
俺だけを見ている今だから言うよ。
「今日、4列目中央でステージ見てたよね。」
『何でっ』
「俺、ステージからずっと見てた。」
『どうして…』
どうしてって。
あの瞬間衝撃が走ったんだ。
「…一目惚れ、しました。」
ずっと、見ていたいと思ったんだ。
『そ…まさ…え!?如恵留くん、何言って…』
そうだよね。信じられないよね。
俺だって逆だったら信じる事できないと思う。
だけど。
「嘘じゃない、です。本当に。ずっと見てた。」
戸惑っているの、分かるよ。
でも。
「名前、教えてください。それから、また、会いたい。」
今の俺に言える精一杯の言葉。
気持ち、伝わる?
「また、会いたいと思ってます。」
『…私、美勇人くんのファンです。それでも、ですか?』
俺はゆっくりと掴んでいた腕を離した。
「はい、それでも、会いたい。」
電車に乗った姿を見送る。
横山ありすさん。
可愛い名前。
連絡先も聞いた。
冷静になると、俺は何をやってんだ!と思うけど。
でも冷静じゃいられなかった。
彼女の腕を掴んでいた自分の手を見つめる。
「ちょっと、強引だったかな。」
思わず心の声が漏れた。
ケータイがメールの着信を告げる。
゛ありすです。今日の事は美勇人くんには言わないでくれますか?゛
゛分かりました。また連絡します。ありがとう、気を付けて。゛
チクリと心が痛む。
美勇人に言うわけない。
言えるわけがない。
お前のファンに一目惚れして追いかけたなんて。
誰にも言えないよ…。
゛今日は劇場行きます。如恵留くんも頑張ってね!゛
ありすさんとは少しずつ連絡を取るようになった。
今日は連絡先を聞いた日から3日目。
また観劇に来てくれるという嬉しい連絡。
俺を見に来るわけじゃないのは分かってる。
でも、いつもよりも気合が入る。
不思議だな。
同じステージも違った景色に見える。
客席も前より見るようになった。
距離が近いからどうしても恥ずかしくて目線を逸らすことがあったんだけど。
ありすさんは美勇人を見ているだろうけど、いいんだ。
いつか、絶対にいつか、俺の方を見てもらうように頑張るから。