第1章 出会い。
駅までの距離がこんなに長く感じたのはいつ以来だろう。
今頃まだ彼女は美勇人を送っているのかな?
また明日も見に来てくれるかな?
今まで来てたのかな?
いつから美勇人を見ているのかな?
…あの瞳が俺に向かないかな?
なんて。
どうしようもない事ばかりを考えてしまう。
どうしたんだよ、俺。
一目惚れなんて、初めての事じゃないのに。
今までも何度かあったのに。
あったけど…。
衝撃で体が動かなくなったのは初めてだ。
どうしても彼女から目が離せなくなった。
こうして彼女の事ばかりを考えてしまう。
駅に向かう足が自然と止まる。
「みんなもう飯行ったかな?」
今渡ったばかりの横断歩道を引き返そうと振り向く。
赤信号に変わってしまい立ち止まる。
あれ?
反対側にいるのってまさか…
青信号に変わり、横断歩道を進む。
まさか…
でも、間違いない。
すれ違いざまに確認する。
やっぱり。
やっぱり彼女だ!
俺の足はまた駅の方向に向きを変えていた。
前を歩く彼女を追う。
少しずつ早くなる鼓動。
どうしよう。
このまま彼女は駅に行ってしまう。
どうすれば…。
『え!?』
その声が聞こえた時には、俺はもう正常ではなかった。
彼女の腕を掴んでいた。
振り向いた彼女は、ただただ驚いていた。
俺は何も言えずに黙って彼女を見つめた。
『え!?如恵留くん!?』
「あっ…」
『何で!?え!?』
慌てているのか、怯えているのか。
そんな彼女は驚きのあまり今にも泣いてしまいそうな顔をしている。
「あ、あの。」
掴む腕に力が入ってしまう。
『痛っ…。私に何か?』
「名前…名前教えてください。」
俺の精一杯の言葉をどう思っただろう。
数秒の沈黙は長い時間に感じた。
『私、何かしましたか?ルール違反とか…』
あぁ、そういう風に捉えたんだ。
「いや、そういうのじゃない。」
『え?』
「そうじゃないんだ。」
また沈黙。
困った顔で俺を見ながら、少しずつ後ずさりをしている。
「ごめん。突然。…美勇人のファンだよね?」
今度は驚いた顔。
「急にごめん。怖いよね…」
『ちょっと、だけ。』
そう言って目線を上げてくれた。
瞳には俺が映っている。
間違いなく、今は俺だけが映っている。