第13章 ◆本音の絆
あれから二日が経った
冬から春にかける温暖な気候の日。
夏目はいつものように
小さな花束を二つ抱えて病院に来ていた。
「 ・・・おはよう。」
カーテンを開けて
頭の下がった花が活けられた花瓶の水を替え
手に持っていた花束を差し替える。
作業をしながら掛けた
夏目の小さな挨拶は
無音の部屋に響いて消え
返ってくる言葉は無かった。
「 ・・・皆、心配していたぞさな。」
作業を終えた夏目が
ふっと微笑み、
ベッド脇にある簡易の椅子に腰を掛ける。
そのベッドに
穏やかな表情で眠る
さなの頭を優しく撫でた。
・・・健司が運ばれたあの直後、
さなも倒れ
そのまま治療を受ける事となった二人。
健司は一命は取り留めたものの
意識が戻る気配はなく、
未だ集中治療室にて
入院をしている状態だ。
そして、さなは
あの黒煙と致死量の毒が体内に入った事から
回復に時間が掛かり
未だ目を覚まさない。
・・・健司の持つナイフからの毒。
解毒したのは夏目の術によってだが、
一切の影響が無いとは言えなかった。
そして丸二日、
さなは眠ったままの状態が続き
夏目が見舞いに毎日訪れていたのだ。
「 ・・・はやく良くなって、
はやく目を覚まさないと
・・・勉強、付いていけなくなるぞ。」
そんな冗談を零しながら
「 後で来るよ、
・・・健司さんの所にも行ってくる。」
夏目は椅子から腰を上げ
もう一つの花束を抱え
さなの部屋から出ようと
ドアに手を伸ばした。
その時だった、
「 ・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・」
今にも消えそうな小さな声、
それを夏目は聞き逃さなかった。