第11章 ◆人と家族
「 ー、ー、ーー、ーー、ー、ー、」
打たれた柏手を額の前に立て
瞼を閉じて念を込める。
その場に膝をつけ
陣中央のさなに向けて
呪詛を唱え始める健司。
時折、視線を
さなに向けながら
その力なく項垂れる体を
椅子と紐が支えている、
そんな生気のないさなの状態を見つめた後
眉間に皺を寄せ
再度瞼を閉じる。
この行為を数回繰り返していた。
ー・・・さな。
必ず、成功させる。
その意志だけを胸に
健司は只管に念を送る。
そして、呪詛を唱え始め
数分が経った頃
陣周りに
割れた窓から入る風を巻き込む
小さな竜巻がゆっくりと形成されていた。
ゴゴ、ゴゴゴ・・・
地鳴りのような
海上には不似合いな音が室内に響き
船は小さく揺れ始め
そして、その音が次第に大きくなり
パリ、パリ、ピキッ
妖の血が入った壺に
小さく罅が入り始めていた。
「 ーー、ーー、」
やがて、その罅は長く
歪な柄で縦に伸びていく。
四方八方に伸びる罅が
無数に出来ていき
ーパリンッ!
遂には派手な音を鳴らし
破片が散らばるようにして割れる。
「 っ!」
壺の割れた音にハッと瞼を開ける健司だが
呪詛を途中で中断なんて事はせず
今度は瞼を閉じることなく
その様子を目に焼き付けていた。
健司の目の前で
タラタラ、とツボに入っていた妖の血が
床に広がる。
「 ・・・ッ。」
床に広がる妖の血は
陣の外に出ていく事はなく
ポコポコ、と所々盛り上がりながら
陣の内側からゆっくり
円を描くように広がっていた。
「 ー、ーー、」
ゴオゴオと
いつしか強大に成っていた陣を纏う風。
陣内部に広がる血と重なって
さなの姿は霧がかって見えていた。
竜巻の様な風が
さなの着ているワンピースと
黒くて長い髪を、ただ揺らしていた。
それはまるで、
さなを起こそうと
必至になっている様にも見える光景だった。